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森林資源管理と数理モデル
第三回シンポジウム
−FORMATH TSUKUBA 2003−

Abstract

基調講演天野正博地球温暖化と森林そして京都議定書
地球温暖化と森林の関係を常識的なことも含めて概観するとともに、京都議定書になぜ吸収源が導入されたのか、なぜ米国は京都議定書批准を行わなかったのか、京都議定書を巡る交渉はどのように行われているのか、そして研究者は京都議定書にどのように関わっていくのかといったことについて報告する。
1白石則彦システム収穫表成長モデルの生態的検証
林業の採算性の低下や森林の多面的機能発揮のため,人工林においても疎植や強度間伐など多様な密度管理の必要性が高まっている。本報告は,筆者が千葉演習林の人工林を対象に開発したシステム収穫表の成長モデルを,特に低い林分密度に対しても適用できるよう再検討したものである。直径の相対成長率は優勢木と劣勢木で異なっており,間伐は成長の遅い個体を除くと考えることで,残された林木の成長率を間伐率と関連づけることが可能になると期待される。
2能本美穂ランダム効果を伴う多変量非線形回帰モデルによる林分成長モデルの推定
これまで林分成長モデルのパラメータ推定では、成長関数を単木あるいは林分の成長データに対し、それぞれ当てはめを行ってきた。その際、成長データへの関数あてはめでは、林分内における林木間の共分散構造が考慮されていなかった。その結果、林分単位で成長を分析する場合、林分特有の成長傾向及びその林分内の各林木の成長のばらつきを考慮することが出来なかった。本研究では、同一林分内の林木間の共分散構造を考慮し、ランダム効果を伴う多変量非線形回帰モデルを用いて林分成長モデルの推定を行う。
3松村直人熱帯林樹種の成長解析
熱帯林荒廃の修復に早生樹として大面積造林が行われたアカシアマンギウムについて、成長特性の分析を行った。アカシア類は産業造林の対象樹種として、造林の成功必要条件から、森林施業的な成長データの解析まで、昨今研究が進められている。また、温暖化対策としてのCDM植林プロジェクトの点からも注目されている。ここでは半島マレーシアの造林データを中心に、他地域との成長比較を行い、施業モデルの作成について報告する。
4竹内公男林家の森林資源管理のための成長予測モデルの検討
林家の施業計画の基礎となっている森林簿データに基づいて、いろいろな施業をパソコン上で試してみるための成長予測モデルを検討した。ヒルミの林分蓄積動態論の応用として開発された蓄積成長式はミッチャリッヒ型成長式である。その2つの係数を収穫表から推定して与えてやれば、森林簿に記載された林分の蓄積を手がかりとして、10年〜20年程度の短期間の蓄積推移なら無難に予測できるので、予想される施業成果の検討に役立てることができる。
5時光博史立木消失の指標
立木は占有空間を変化させながら蓄積を増加させる。想定される成長の限界は明示されていないが,成長は立木の消失まで続く。成長の限界は単木では明らかではないが,ヒノキ単層林を観察すると整然とした数列が得られ,消失する立木と残存する立木は分かれた。そこで,立木の梢端からの距離と直径の比によって樹幹形を表現し,幹材積成長量がその立木の占有面積に比例するモデル立木の集合を林分として,立木消失の指標を求める。
6二宮嘉行林木直径成長データを用いた成長傾向に対する変化点探索法の構築
林木の成長は成長関数の応用により予測されてきたが、隣接木との競合や気候などの影響を考慮すると、その成長は成長関数に従うばかりでなく、なんらかの変化を伴っているものと言える。本研究で、過去の施業履歴がない林分から採取した直径成長データを用いて、成長の傾向に変化が発生しているか否かを統計的に判断できる方法を提示することを目的とする。この方法は、ある非線形成長曲線モデルに対し、成長に変化がなかった」という帰無仮説と「変化があった」という対立仮説とによる統計的検定問題を基にするものである。
7平田泰雅LIDARリモートセンシングで森林の構造を捉える
LIDARリモートセンシングは、これまで2次元での観測であった森林リモートセンシングの3次元計測への拡張であり、森林の構造・機能を捉えるツールとして期待が高まっている。その一方で、我が国のように森林が急峻な地形に生育する場合、地形の影響を考慮した森林構造抽出手法の開発が必要となる。LIDARリモートセンシングにより、どこまで森林の構造を捉えられるのかを、最新の研究の動向と将来への展望とともに紹介する。
8立花 敏主要国における木材需給・貿易構造に関する一考察:初歩的計量経済的アプローチ
世界の主要国の木材需給・貿易構造について、国内外の関連研究レビューに基づいて把握するとともに、初歩的計量経済モデルの構築・推定により価格弾性値などに着目して検討した。モデル推定の方法や期間により推定値(価格弾性値など)の結果に差異があることや、同一の国においても木材製品により差異があることが分かった。これらは、価格政策や貿易政策を同一には考えられないことを示唆しており、今後の関連政策を検討する上で参考になるものと思われる。
9小山 修世界林産物需給モデルの開発
本報告は、世界の林産物需給と関連政策の森林資源等への影響を分析するための計量経済モデル(世界林産物需給モデル:World Forest Products Model (WFPM))の開発目的、特徴、構造、さらには解法や使用データ等に関するものである。モデルは、世界レベルで輸出入を均衡させる連立方程式体系の部分均衡同時決定モデルであり、森林資源と素材生産との経験的な関係も含んでいる。
10行武 潔クロスセクションデータによる素材生産関数分析
近年、素材生産量の減少は著しく、1970年の当時の40%以下にまで素材生産量が減少してきている。本研究は、素材生産構造の変化をコブダグラス型生産関数の推定に基づいて技術進歩率の変化等により検討しようというものである。分析の結果、1970〜2000の技術進歩による(労働不変の時の)年平均労働生産性増加率は78.04%、機械のそれは93.03%、1990〜2000年の高性能機械の年平均では100.46%と機械の生産性増加比率の方が大きく、機械への異存が増加していること等が、計量的に把握された。
11吉本 敦最適確率制御モデルを用いた貿易自由化の森林資源管理への影響分析
本研究では、森林所有者の意思決定と行動様式をシミュレーションできる最適確率制御モデルにより、木材貿易自由化に伴う市場環境の変化が如何に森林資源管理に影響を与えるか分析する。本研究で構築するモデルは森林管理の「継続」と「放棄」を考慮できる確率制御モデルである。分析では先進事例である牛肉価格の時系列データを用いて自由化を想定した木材価格のダイナミックスの変化を仮定する。次に、様々なシナリオの設定により森林所有者の経営継続を可能にする最低許容価格を探求し、自由化の影響を分析する。
12李 定洙経済的・生態的側面を同時に考慮した戦略的計画
経済的・生態的側面を同時に考慮した戦略的計画問題に関して、森林経営単位として収穫ユニットという新たな区分を案出し、経済的・環境的側面と空間的な林分配置を同時に考慮する森林施業計画の策定方法について検討した。その際、収穫量の最大化を目的関数とし、空間的要素、環境的要素等は制約条件の中で考慮した。経営単位としての収穫ユニットという概念に加えて、分期の進行と共に林班別に循環させながら収穫を行う施業システムを新たに導入した。3つのシナリオを想定し、それぞれの結果について検討を加えた。
13林 隆男人工林資源の持続的管理の可能性
愛知・岐阜・長野・富山4県のスギ・ヒノキ人工林を対象として、木材の安定供給を仮定した森林伐採計画問題を線形計画法により定式化し、齢級構成を平準化させる「面積保続制約」を追加することによる収益・伐採量への影響を調べた。平準化達成時期を15期とした上で齢級別面積を一定とする齢級(目標齢級)を変化させたとき、計画期間を通して伐採齢の最頻値・平均値が高い状態で安定する目標齢級が存在し、それ以外の目標齢級では伐採齢の最頻値・平均値が低くなる時期が見られた。
14松本光朗COP・IPCCが求める国家インベントリーシステムの姿
マラケシュ合意では、森林吸収源に関わる基本事項の定義や計上方法、数値が示されたことにより、京都議定書の内容を具体化したと言われている。しかし、いまだ不明瞭な部分も多く、技術的にも問題点が残っている。例えば、報告には3条3項4項に関わる森林はその位置を示すことが求められ、土壌有機炭素を含む5つの炭素蓄積の変化を計上しなければいけない。さらに、国家インベントリーシステムはこれらの情報を提供する必要がある、としている。本発表では、マラケシュ合意とIPCCでの議論をふまえ、求められている国家インベントリーシステムの姿を描き出す。
15豊田信行スギ人工林の間伐と炭素吸収
愛媛県のスギ人工林の地上部現存量について、13林分で調査した。過去1〜15年間に間伐を実施した林と、過去25年以上除間伐を実施していない林の2つに分けたが、間伐林と無間伐林の林齢と平均樹高はほぼ同じであった。葉乾重は、間伐の有無に係わらずほぼ一定であったが、幹乾重と地上部現存量は、間伐の有無により有意な差があった。スギの35年前後の林齢での、間伐の実施による成長量の差を、葉量と幹成長量より比較検討する。
16伊藤昭彦プロセスモデルによる森林の炭素貯留とその収支変動のシミュレーション
森林生態系の炭素貯留量とその変動を推定するための、生理生態学的メカニズムに基づくモデルによるシミュレーション結果を報告する。モデルを熱帯林・温帯林・亜寒帯林に対して適用した結果(成長過程と季節変化)を比較する。また、森林火災が頻発する亜寒帯林については撹乱が炭素収支に与える影響をモデルに導入する取り組みについても紹介する。最後に、環境変動が森林の炭素貯留に与える影響と管理におけるモデル研究の重要性について考察する。