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森林資源管理と数理モデル
- 21世紀ニューミレニアムに向けて -
FORMATH NAGOYA 2001

Abstract

1大沢 晃単純同齢林における構造発達の新しい復元法
単純同齢林の構造発達を定量的に復元する方法を考案し、妥当性を調べた。この方法は現存する林分で行った一度の毎木調査などのデータと単純同齢林で一般に成り立つと考えられるいくつかの簡単な仮定をもとにしている。また、林分内で大きいほうから選んだひとグループの木の胸高から取った年輪データと、林分内から選んだ何本かのいろいろな大きさの木の樹幹解析データを用いる。過去の任意の時における林分密度と木の材積分布のパラメターを、「幹の細さ係数」と幹材積分布の-3/2乗分布仮定から計算した。樹木個体についての時間依存的相対成長関係を推定し、これを用いて林分全体の材積とその成長量を求めた。また、グメリンカラマツ林とバンクスマツ林の材積分布と林分全体の材積および現存量推定への適用の妥当性を検定した。
2稲田充男上部直径による人工林管理
2次のベースライン成分を持つローレンツ形ピーク曲線:p(d)=h/[1+{(d-u)/w}^2]+a*d^2(d:末口直径,a,h,u,w:定数)が材長別末口直径と立米あたりの素材価格との関係曲線式(素材価格曲線)として適合することを示すとともに,素材生産を目的とする人工林における上部直径(末口直径に相当)の意義,特に間伐木選定・択伐林分での伐採木選定にとって有用であることを示す。また,上部直径の測定事例についても報告する。
3吉田孝久定常分布がWeibull分布となる拡散方程式
方程式の作成方法は、下記の通り。1) 成長式を初期値が0となるMitscherlich式とする。2) 枯死、伐採による本数の減少による直径成長率は、マイナスで一定とする。3) 1) と 2) を合成し、成長速度の微分方程式を作成する。4) 拡散速度を一定とし、3) の成長速度をドリフト速度とする拡散方程式を作成する。5) 4) の拡散方程式に変数変換を 2 回おこない、表題の方程式を得る。
4田中和博システム収穫表「シルブの森」
システム収穫表とは、パソコンと会話をしながら林分の成長を予測するシステムの総称である。システム収穫表「シルブの森」は、林分遷移の方程式の理論を基礎にして、同齢単純林の期首の林分表と直径階別平均樹高から、期末の林分表と直径階別平均樹高を予測するシステムである。本研究は、システム収穫表「シルブの森」について、これまでの研究成果を総括したものであり、設計思想、開発の現状、今後の課題などについて報告する。
5竹内公男蓄積級に基づく人工林資源動態モデルの検討
林齢を基本情報とする人工林資源動態の表現方法に代わるものとして、林分蓄積の分布を基本情報とする人工林資源動態の表現方法の可能性について検討する。基本的な考え方は、簡便に測定可能な林分因子の情報と間伐後の材積成長式のパラメーターとの関係を見出すこととと、それらの林分の合計としての地域人工林資源の動態を表現する方法を組み合わせるものである。
6時光博史150年伐期丸太生産モデルと経営の課題
百年前に経営が開始された山林を対象として,財団法人八幡会は2000年から長伐期施業計画を採用した。伐期を150年としたこの計画は林業者である会長の意志と理事会の理解と承認とによって実現したものである。この計画作成を支援する過程で単純化された林分成長,樹幹成長モデル,モデル利用例と既存データとの対照,更にモデルの精度と経営の課題との関係を示す。
7野堀嘉裕森林空間構造の動的解析手法の開発
森林は地球上の陸地環境の重要な要素であり、その空間的情報は現地調査や空中写真から比較的簡易に得られる。一方、森林の成長過程を視覚的に表現する手段は、その情報量が膨大であるため技術開発が立ち遅れている。近年、情報処理装置の能力が飛躍的に発達したため、普及型パーソナルコンピュータとオペレーティングシステムであっても成長経過の視覚化システムの開発が可能になりつつある。本研究では、森林の時間的・空間的情報の解析データを基にした森林空間構造の動的解析の考え方とその応用例を示す。
8松本光朗混牧林のための収穫予測モデル
森林を林木生産と同時に放牧にも利用する混牧林経営は、林・畜・草の3要素から構成されたシステムであり、それらの要素をバランス良く管理・制御することにより施業として成立する。このことから、林分と下層植生の関係、放牧密度と林木成長といった各要素間の関係をモデル化することにより、林分と放牧の両者を見据えた収穫予測モデルを開発したので、これを報告する。
9岡 裕泰非定常状態における伐採率の推定
森林の齢級別伐採率は、木材価格や伐採・育林費用の変化、および資源の齢級構成の変化によって変化するものと考えられている。資源の齢級構成や、経済的伐期が大きく変動している過程において、過去の観察された樹種別・齢級別の伐採率から、将来の伐採率を推定する際の問題点と、それに対する現実的な対応方法について検討する。
10吉本 敦不確実環境下の森林資源管理に対する最適確率制御モデル
本研究は、木材市場環境の不確実性下における最適森林資源管理の探求を目的とする。本研究では、まず林産物市場における価格のダイナミックスを連続型確率微分方程式で捉える。次に、連続型プロセスを二項過程により離散化し、森林所有者の管理選択問題を定式化する。最後に最適意思決定プロセスを描写できる最適確率制御モデルを構築する。ここで構築するモデルを用いて、価格の不確実性下において、持続的森林資源管理を達成できる最小許容木材価格水準を求める。
11行武 潔我が国における地域別木材需給構造の計量経済分析
我が国製材市場における米材は各地の市場でスギ材と競合し、現在の主要な座を占めるに至った。本報告は国産材、米材を対象に東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州の8地域において、製材需給モデルを構築することにより市場構造を計量的に把握しようとするものである。分析には両対数型線形モデルを採用し、OLSによりパラメータ推定を行った。分析の結果、製材需要が建築活動に大きく左右されること、供給については、輸入製材に比べ、国産材製材、国内挽米材製材ともに価格に非弾力的であることが分かった。
12島本美保子空間均衡分析によるアジア林産物貿易モデルの構築とその政策への応用に関する問題点
FAOのGFPM(空間均衡分析による世界林産物貿易モデル)を応用した、アジア16地域とその他7地域、15製品を対象とした2020年までの林産物貿易モデルによる将来予測を行う。またこのシミュレーションの目的は単に将来ではなく、政策による林産物の生産・消費・貿易への影響を比較動学可能なモデルを構築することである。その観点から、WTOの林産物自由化に関するUSTRのレポートによる空間均衡モデルの政策提言への適用の仕方に関する評価も行う。
13近藤洋史九州地方ヒノキ収穫試験地データを用いた林分密度推移の解析
高密度でかつ高齢となった九州地方ヒノキ収穫試験地のデータを用いて林分密度の推移について解析を行った。林分密度の尺度として相対幹距と林分密度管理図の収量比数を主に利用した。相対幹距を用いて林分密度を解析すると,ヒノキの無間伐林分の相対幹距はスギのそれと同様10%に漸近することが明らかになった。また,収量比数と相対幹距には強い負の相関がみられた。さらに密度管理図の最多密度曲線を超過する試験地が存在し,ヒノキの最多密度曲線調製の必要性を示唆するものと考察された。
14松村直人森林の継続調査と成長量の地域間比較
四国地域の森林計画区を対象に、地域別森林成長モデルの作成を行い、固定試験地の成長資料を利用した長期予測モデルの検証や精度向上の可能性を検討する。また、この地域別モデルを基本モデルとして利用することによって、広域あるいは小流域森林の成長予測への応用や暫定プロット調査の補完的利用法についても検討する。
15千葉幸弘炭素固定プロセスによる森林資源予測
森林生態系の炭素循環過程をコンパートメント(葉、枝、幹、根、土壌有機物)で記載し、各コンパートメント内部の生理的プロセス(光合成や呼吸、分解など)を別途モデル化することで、森林の成長量・蓄積量が計算できる。また、間伐などの施業が炭素固定プロセスに及ぼす効果を検討するための手掛かりとなる同化産物の枝・幹・根への分配、密度効果について紹介する。
16箕輪光博資本評価三態
森林評価もしくは森林経営分野には、林地資本、林木蓄積資本、管理費資本、平田の森林生産力資本などの資本概念がある。他方、環境資源勘定の分野では、人工資本との対比で自然資本に注目が集まっている。そこで、本報告では、資本評価方式を、収益還元価(ラプラスの世界)、費用還元価1(平田・鈴木の世界)、費用還元価2(フーリエの世界)の三つに区分し、地域森林経営・管理の観点から、それぞれの特徴と限界、および応用可能性について論ずる。
17山本一清スギにおける断面積と葉面積の量的関係
林木の樹冠内における幹(辺材部)及び枝の断面積と葉面積の関係は様々な樹種において解析され、その密接な関連性が示されている。樹冠内の各構成部における両者の関係は、樹冠内の葉による光合成及びその同化産物の配分をモデル化する場合の基礎となり、林木及び林分の成長を考える上で重要な情報である。本研究では、これまで得られた結果をもとに樹冠内の各構成部における断面積と葉面積に量的関係について考察する。